フルミスト®(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)が日本上陸

フルミスト®(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)が日本上陸

毎年冬になると話題になるインフルエンザワクチン。特に小児や高齢者、基礎疾患のある方々にとっては、感染による重症化リスクが高く、予防接種が強く推奨されています。インフルエンザワクチンには従来の注射型に加えて「経鼻型生ワクチン」と呼ばれる鼻から接種するタイプが存在します。今回はこの「フルミスト(FluMist)®(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)」について、特徴や効果、接種の方法や注意点などを詳しく説明します。

フルミストがついに承認

「フルミスト(FluMist)」は、インフルエンザウイルスを弱毒化した生ワクチンです。生ワクチンとは、病原体の活性を弱めた状態のものを使用することで、自然感染に近い免疫応答を引き出すことを目的としています。このフルミストは、今から20年以上前(2003年)からアメリカでは使用されており、ヨーロッパ各国でも10年以上(2011年より)の使用実績があります。アメリカでは効果について疑義があり、暫くの間推奨から外れていたことなどもあり、日本では2023年にやっと承認が下り、2024年今シーズンより国内の医療機関で一般接種が開始となりました。

経鼻型のメリット

フルミストの最大の特徴は、注射を必要とせず鼻から吸入するだけで接種が完了する点です。特に小児や注射を苦手とする方々にとって、接種時の痛みや接種後の腫れを伴わない接種方法は大きなメリットとなります。また、経鼻型のワクチンは気道粘膜に直接作用するため、インフルエンザウイルスが感染しやすい上気道での免疫応答を強化する効果も期待できます。

予防効果の範囲

フルミストは3価インフルエンザワクチンであり、A型のH1N1、H3N2、そしてB型の1系統のウイルス株に対して予防効果があります。この3価の組み合わせは、世界保健機構(WHO)の推奨を元に決定しており、日本国内で生産される従来型の不活化ワクチンとは異なる株ですが、世界中で流行している季節性インフルエンザの広範な株に対してカバーができ、流行株が変化した場合にも一定の防御効果が期待できます。

<フルミストのワクチン製造株>
A/ノルウェー/31694/2022(H1N1)
A/タイ/8/2022(H3N2)
B/オーストリア/1359417/2021(ビクトリア系統)

適応と対象年齢

フルミストは、2歳から18歳までの人を対象としています。従来の注射型ワクチンと異なり、免疫力が低下している方や特定の持病を持つ方への接種は避けられます。例えば、喘息やその他の慢性呼吸器疾患、心血管疾患、免疫不全の状態にある方には接種が推奨されていません。また、妊婦やステロイド治療中の方も接種を避けるべきとされています。これらの背景により、フルミストは健康な子どもや若年成人向けのワクチンと位置づけられています。

接種方法

フルミストの接種方法はとてもシンプルです。専用のスプレー容器を使用し、医師または看護師が片方ずつ両方の鼻腔に0.1ccずつを噴霧します。接種回数は、(2歳から18歳までで、日本の基準では)1回の接種で十分とされています。

接種の頻度

フルミストも他のインフルエンザワクチンと同様に、年1回の接種が推奨されています。インフルエンザウイルスは変異しやすいため、毎年最新の流行株に対応したワクチンが開発されています。したがって、1回の接種でシーズンを跨いだ長期間の予防効果が得られるわけではないことに留意が必要です。

効果と有効性

フルミストは、生ワクチンであることから、自然感染に近い免疫応答を引き出しやすいとされています。経鼻型のため、特に上気道の粘膜での免疫応答が強化されることが期待されています。研究によると、フルミストは注射型のインフルエンザワクチンと同程度もしくはそれ以上の予防効果があり、特に小児に対してはより高い有効性が示されています。

一方で、成人に対する効果は従来の注射型ワクチンに比べやや低いとされる研究結果もあります。これは、成人においては鼻腔の粘膜免疫が低下していることが影響していると考えられています。しかし、フルミストの免疫応答が自然感染に近い形で誘導されることにより、長期的な免疫記憶が期待できる点はメリットです。

副反応と安全性

フルミストには一般的なインフルエンザワクチンと同様に副反応が生じることがあります。通常、軽度から中程度の症状が一時的に現れることが多く、主な副反応として以下のものが報告されています。

– 鼻水や鼻づまり:接種後に軽度の鼻水や鼻づまりを感じることがあり、数日で治まることがほとんどです。
– 咳や喉の痛み:鼻から吸入するため、気道への軽い刺激が副反応として現れることがあります。
– 微熱や倦怠感:ごくまれに一時的な微熱や倦怠感が出る場合もありますが、通常は1日程度で治まります。
– 頭痛や筋肉痛:軽度の頭痛や筋肉痛が生じることもありますが、重篤なものではなく、自然に治癒するケースがほとんどです。

注意点

フルミストを接種するにあたって、以下の点に注意が必要です。

1. 持病がある場合:呼吸器疾患や免疫不全の方は、従来型の不活化ワクチンを検討する必要があります。フルミストは生ワクチンであるため、免疫抑制状態にある方が接種するとリスクが生じる可能性があるためです。

2. 妊娠中の接種は避ける:妊婦に対しては安全性が確立されていないため、フルミストではなく従来型の不活化ワクチンを選択することが推奨されています。

3. 接種後の感染リスク:フルミストは弱毒化されたインフルエンザウイルスを使用していますが、稀に周囲の人に軽度の感染が広がる可能性があるとされています。特に、免疫抑制状態にある家族がいる場合には、接種後2週間程度は接触を避ける配慮が必要です。

4. 他のワクチンとの同時接種:他の生ワクチンとの同時接種は避けることが推奨されており、(添付文書に明確な記載はないものの)接種間隔も4週間以上あけることが望ましいです。

接種費用

フルミストの接種費用は、医療機関によって異なりますが、一般的には7,000〜10,000円程度のようです。1回分の接種費用としては従来型ワクチンと比べて高額ですが、小児に限れば接種が1回のみで完了しますので、2回分の接種費用と比べるとほぼ同額と考えることもできます。健康保険が適用されず、また導入初年度で自治体の小児や高齢者に対する予防接種の助成制度も適応になるところがなく、全額自己負担となることがほとんどです。詳しくはお住まいの自治体窓口にお問い合わせ下さい。

当院でのインフルエンザワクチンについてはこちら

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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