麻しんとは
麻しん(はしか)は、麻しんウイルスによって引き起こされる急性の感染症で、主に子供に影響を及ぼすことが多いですが、大人が罹患するとより症状が重くなることがあります。
特徴的な発疹や高熱を伴い、空気感染で非常に強い感染力があり、現在でも世界中の地域で流行を繰り返しています。
麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)によって効果的に予防が可能ですが、先進国の中にあって日本では2回の接種完了率が最低水準で、未だに日本は麻しんの集団感染の脅威から開放されていません。毎年のように日本国内で集団発生のニュースが見受けられます。
麻しん・病気の経過について
麻しんは一般的に10-14日程度の潜伏期間を経た後に全身症状と特徴的な発疹で発症します。主な経過は以下の通りです。
前駆期:感染から10~14日後に発症し、初期症状として微熱、咳、鼻水、結膜炎などの風邪のような症状が現れます。この時期の強い粘膜症状をカタル症状と呼びます。この段階で既に他者への感染が成立します。
発疹期(ほっしん):上記の粘膜症状が増悪しカタル症状が数日続くと、顔や首の後ろから体に広がる赤い発疹が現れます。赤黒い発疹は癒合して拡大し数日間で全身に広がり、強いカタル症状と高熱が1週間程続きます。
回復期:1週間ほどで発疹がピークに達すると、徐々に褪色していきます。全体的に症状も落ち着き治癒へ向かいます。
合併症で重要なものとしては肺炎と脳炎があり、特に乳児(1歳以下の子ども)で合併症を起こすと重症化のリスクが高まります。日本でも麻しんによる肺炎と脳炎で多くの子どもが亡くなった時代がありました。他にも喉頭炎(クループ)、心筋炎、中耳炎など多くの合併症が起こり得ます。
稀ですが、亜急性硬化性全脳炎という、麻しん感染後に何年も経ってから言語障害や行動異常で発症し、進行性で死に至る遅発性合併症も報告されています。
また妊娠中に感染を起こすと流産の原因となるため、風しんと併せてワクチンによる妊娠前の準備としての予防が重要です。
麻しんの流行地域
麻しんは、ワクチンが普及する前は全世界的に流行していました。現在もワクチンの接種率が低い国や地域では、大きなアウトブレイクが発生するリスクがあります。
日本を含めたアジア全体が流行地域となっており、アジアの渡航先からの帰国者が日本国内にウイルスを持ち込むというケースが少なくありません。
麻しんの感染経路
麻しんウイルスは最強クラスの感染力を有しており、1人の感染者が周囲の何人に感染させうるかの指標である基本再生産数は12~18で、インフルエンザの基本再生産数が2前後ですのでインフルエンザウイルスの6~9倍の人に感染させやすいということになります。基本的な感染経路は飛沫感染で、患者の咳やくしゃみによって放出される飛沫を通じて他の人に感染します。結核のように麻しんウイルスも空気感染することが知られており、患者がいた部屋を離れた後もしばらくの間、ウイルスが空中に残ることがあります。
国内で自然発生することはありませんので、麻しんへの感染には必ず別の麻しん感染者との接触歴があるはずです。基本的には麻しん患者との接触や同じ空間で過ごしたエピソードがなければ、医師は麻しんを疑いません。
麻しんの治療
麻しんに特効薬はなく、基本的には症状を緩和する対症療法と全身管理の維持療法が主となります。
休養:十分な休養をとることで、体力を回復させます。
発熱・痛み:解熱鎮痛剤を用いることで、発熱や痛みを緩和することができます。
水分補給:脱水を防ぐため、こまめに水分を取ることが大切です。
合併症:脳炎や肺炎、心筋炎などの合併症に注意が必要で、もし起こった場合はそれぞれの症状に応じた集中的な治療が必要になります。
麻しん流行地での注意事項
予防接種:出発前に麻しんのワクチン接種を受けることが最も効果的な予防方法です。
人混みを避ける:特に感染者がいる可能性のある場所や人混みは避けるよう努めましょう。
手洗いの徹底:手をこまめに洗う、アルコール消毒を行うなど、基本的な感染症対策を徹底しましょう。
症状が出た場合の対応:流行地域で麻しんの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し、周囲の人々に感染を広げないよう注意することが重要です。
麻しんはワクチン接種によって確実に予防できます
麻しんはかつて多くの人々が罹患し、合併症による数え切れないほどの乳児死亡をもたらす感染症でした。しかし麻しんワクチンの登場と普及により、多くの国でその数を著しく減少させることができました。
ワクチン接種による予防効果は高く、生涯で2回の接種が完了すれば、基本的には麻しんには罹らなくなります。
特にアジアの途上国地域への渡航予定がある場合、また妊娠前の妊活期には麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の接種が強く推奨されています。
麻しんワクチンの効果
個人免疫:麻しんワクチンを接種すると、体は麻しんウイルスに対抗するための免疫を獲得します。これにより、麻疹ウイルスによる感染が成立しにくくなるとともに、実際にウイルスに感染しても病気を発症するリスクが著しく低下します。
集団免疫:多くの人がワクチンを接種することで、ウイルスの伝播経路が途絶え、集団全体の感染リスクが低下します。これにより、ワクチンを接種できない乳幼児や免疫系に問題がある人も守られます。
ワクチンの副作用
ワクチン接種は長期間にわたり使用されてきた安定したワクチンですが、稀に以下のような副作用が報告されています。
一般的な副作用:接種部位の赤み、腫れ、痛みや微熱がある場合があります。
稀な副作用:アレルギー反応や、高熱、発疹が生じることがあります。非常に稀ではありますが、これらの症状が出た場合は速やかに医師の診察を受けることが推奨されます。
麻しんワクチンの接種スケジュール
接種のタイミングは国や地域により異なることがありますが、多くの国では以下のスケジュールで接種が推奨されています。
1回目:生後12ヶ月頃
2回目:生後4歳~6歳頃、あるいは小学校入学前
流行が発生している場合や流行地域への渡航が予定されている場合などは、1回目の接種を生後6ヶ月以降に前倒しで受けることも考慮されます。
いずれにしても就学前に2回のMRワクチン接種を完了させることが、世界的に強く推奨されています。
まとめ
麻しんは高い感染力を持つ病気ですが、ワクチン接種により効果的に予防することができます。ワクチン接種は個人を守る個人免疫だけでなく、社会全体の健康をも守る集団免疫のための重要な手段です。世界保健機関WHOは、撲滅すべき感染症として、天然痘とポリオに並んで麻しん撲滅を掲げており、世界のほとんどすべての国で最も重要なワクチンとして麻しんワクチンの接種率向上が急がれています。
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内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職