聞き慣れない感染症、髄膜炎菌(ずいまくえんきん)とは??

髄膜炎菌とは

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、冠するその名の通り、脳髄膜炎(のうずいまくえん)を引き起こす主要な原因の一つである細菌です。
この菌によって引き起こされる髄膜炎は、他の起因菌と比べても極めて急性の重篤な経過を辿り、また密接した環境で集団感染を起こすことが知られており、未治療の場合は死に至ることもある重要な感染症です。

髄膜炎の概要

髄膜炎は、脳および脊髄を覆う薄い組織、髄膜の炎症を指します。髄膜炎を起こす起因菌には、肺炎球菌、ヒブ、麻しん、ムンプス、結核菌など多くの重要な菌が知られていますが、中でも特にこの髄膜炎菌による感染は、疾患の進行が急速で救命のために早急な治療が必要です。好発年齢は、無脾症などの免疫不全がある乳幼児(0~4歳)と、集団生活により感染リスクが高まる10代後半とされています。

髄膜炎にかかると

感染初期は、風邪のような軽度の症状から始まることが多いのですが、進行が早く、数時間から数日の間に症状が悪化し、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
治療が遅れると、聴覚損失や記憶障害などの脳高次機能の障害、さらには生命維持に必要な脳の原始機能についても損傷を受け、呼吸不全や循環不全を起こして死に至ることもあります。

髄膜炎菌の流行地域

アフリカのサヘル地帯(サハラ砂漠周辺)を中心とした「髄膜炎ベルト」と呼ばれる地域での流行が知られています。ただし、髄膜炎菌は全世界に分布しており、先進国を含めて集団生活をしている場所や密集した地域でのアウトブレイクが毎年報告されています。

髄膜炎菌の感染経路

髄膜炎菌は、人間の咽喉部(のど周囲)に生息していることが一般的で、感染者の咳やくしゃみによって飛沫が飛び散ることで他者に感染します。無症状で保菌しているキャリアと呼ばれる状態が少なくないため、密接な接触、特に家庭内や学校(特に寮生活)などの集団生活をしている場所での感染リスクが高まります。集団感染を起こしうるエピソードとして、オリンピックやワールドカップ、またイスラム教の聖地巡礼(ハッジ)など、非常に多くの人が一箇所に集まるマスギャザリングと呼ばれる状況が挙げられます。日本でも近年2019年ラグビーワールドカップの期間中に髄膜炎菌の感染者が発生したことで話題となりました。

髄膜炎菌の症状

髄膜炎菌による感染の初期症状は、風邪のようなものから始まることが一般的です。しかし、これらの症状は急激に悪化する可能性があり、以下のような特有の症状が現れることがあります。

高熱
強い頭痛
嘔吐
首の硬直
意識障害
発疹(特に圧迫しても色が変わらない小さな赤い点や斑点)

髄膜炎の治療

髄膜炎菌感染症の疑いがある場合、即座に医療機関を受診することが重要です。感染が確認された場合、隔離環境による入院が原則ですが、治療は以下の通りです。

抗生物質: 早期に投与することで、症状の進行を抑制し、合併症のリスクを低減させることができます。
対症療法: 症状に応じて、解熱剤や鎮痛剤、脱水の予防・治療などが行われます。

髄膜炎流行地での注意事項

特定の地域、特にアフリカの「髄膜炎ベルト」などでは、髄膜炎菌の流行が頻繁に報告されています。流行地域を訪れる場合、以下の注意事項を守ることで感染のリスクを低減することができます。

ワクチン: 出発前に髄膜炎菌ワクチンを接種することで、感染のリスクを大幅に下げることが可能です。
衛生的な生活: 手洗いを頻繁に行い、不衛生な食品や水の摂取を避けましょう。
人混みの避ける: 大きな集まりや混雑した場所はなるべく避けます。

髄膜炎菌予防としてのワクチン

髄膜炎菌ワクチンは、特定の髄膜炎菌のセロタイプ(A型、C型、W型、Y型など)に対する免疫応答を体内で引き起こし、感染や病気の発症を高率に防ぎます。通常は単回接種のみで十分な効果が得られるため、流行地域に渡航する前のワクチン接種が推奨されています。

髄膜炎菌ワクチンの副作用

髄膜炎菌ワクチンは一般的には安全で、大半の人は重篤な副作用の心配はありません。接種後に以下のような軽度な副作用が現れることがあります。

注射部位の赤みや腫れ
短時間の発熱
疲れや倦怠感

これらの副作用は一時的であり、通常数日以内に自然に消失します。非常に稀に、重篤なアレルギー反応が発生することがあるため、接種後の体調変化には注意が必要です。

髄膜炎菌ワクチンの接種スケジュール

髄膜炎菌ワクチンの接種スケジュールは国や地域、使用するワクチンのタイプによって異なりますが、一般的なスケジュールは以下の通りです。

小児: 10-11歳頃に初回の接種を行い、おおよそ5年後にブースター接種を受けます。
成人:流行地域への渡航、免疫不全など特定の既往がある場合には、単回接種の5年後にブースター接種を受けます。

まとめ

髄膜炎菌感染症は、急速に進行し、時に致死的な感染症です。髄膜炎ベルトの流行地への渡航や、世界的なスポーツイベントなどマスギャザリングの状況が想定される場合には、出発前のワクチンが強く推奨されます。日本ではまだ定期接種に組み込まれていませんが、欧米への留学者は入国前の接種が必須となっている国が多いため、留学手続きの一貫で髄膜炎菌ワクチンを接種する人も少なくありません。

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

 

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