⑥(応用編)インフルエンザの疑問・質問。何でもお答えします。

mRNAワクチン(コロナワクチン)と不活化ワクチン(インフルエンザワクチン)の違い。

少し難しい話になりますが、Messenger RNA型のワクチンとは、コロナウイルスのワクチンに使われている新しい技術で、ウイルスを作り出す遺伝子の一部を人体に注射し、人の体内でウイルスの一部(スパイク蛋白)を自分自身が作り、それに対して体が免疫反応をすることで抵抗力を作り出すという仕組みです。一方で不活化ワクチンとは、現在世の中にあるほとんどのワクチンがこのタイプに分類されますが、ワクチンの製造工程であらかじめウイルスそのものを培養して増やし、薬剤により分解されたウイルスの体の一部をワクチンとして人に注射するものです。免疫反応の仕組みは同じです。コロナのワクチンで言えば、新しい技術であるMessenger RNA型ワクチンの方が、大量に早くワクチンを製造することができ、また抗体獲得の効果も非常に高い成績が出ていますので、もしかすると将来他の感染症のワクチンもこのMessenger RNA型ワクチン置き換わっていく可能性はあるかもしれません。

子供は2回大人は1回なのはなぜなのか?

インフルエンザワクチンは、生後6ヶ月から接種することが可能ですが、12歳までは4週間をあけて2回接種が必要です。13歳以上は1回の接種で十分な抗体が獲得できますが、12歳までの子供は感染症に対する体の防御機構 (免疫) がまだ脆弱であるため、1回のワクチンでは十分な免疫反応が起きず抗体獲得が不十分とされるため、ブースターとして2回目の接種が必要とされています。

副反応は?

インフルエンザワクチンは副反応が少ないことで有名です。打ってはいけないのは、過去にインフルエンザワクチン接種により重症なアレルギー症状 (アナフィラキシー反応) を起こしたことがある人のみです。ワクチンの製造工程で、鶏の卵をウイルス培養に使用していますが、卵アレルギーがあってもワクチン接種が禁止という事はありません。蕁麻疹を起こしたり接種部位の腫れが強く出たりしやすいので、注意して接種する、場合により接種量を減らす、1回のみの接種とする、などの判断を医師がする場合があります。問診票に書かれている、過去に喘息と言われたことがある人、てんかんや痙攣の既往のある人、本人や親族に免疫不全の病気を持った人、心臓や肝臓や腎臓に持病のある人、これらの人はワクチンを打っても問題はなく、むしろ接種が強く推奨される人たちです。

コロナワクチンと打つ場所が違うのなぜ?(筋肉注射と皮下注射)

結論を先に言いますと、国産ワクチンは皮下注射、輸入ワクチンは筋肉注射で接種をしているためです。国際的にはワクチンの接種部位には一定のルールがあり、生ワクチンは皮下注射、それ以外のワクチンは筋肉注射をするのが一般的です。例外的に日本ではかなり昔ですが、抗生剤やステロイドなどを筋肉注射した後にしこりが残るような事例があったため、一時期筋肉注射を原則禁止としていた時期がありました。その時の慣習が残り、今でも多くのワクチンを皮下注射しているようです(諸説あり)。ただ研究データでは、ほぼ全てのワクチンが筋肉注射をした方が効果が高く、痛みや腫れなどの副作用も出にくいということがわかっていますので、日本でも近い将来すべてのワクチン(生ワクチン以外)を筋肉注射に切り替えるべきだと思われます。

コロナワクチンと一緒にインフルエンザワクチンを接種してもいいの?(同時接種)

ワクチンとその他のワクチンの接種間隔はまったく開けなくても大丈夫です。同じ日や次の日に別のワクチンを受けても良いというのが国際的な見解です。日本ではコロナのワクチンが出始めた当初に、念のため他のワクチンと影響がないように念の為2週間の間隔をあけましょうとしていた古いルールが残っていましたが、これは科学的根拠のない行為なので、厚生労働省が撤廃し現在では同時に接種してもいいことになっています。当院でも同時接種を行なっております。
厚生労働省 新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種について

今年のインフルエンザワクチン流通数は多いの、少ないの?

インフルエンザのみならず、すべてのワクチンは感染症の流行や昨年の使用実績に応じて、国が製造量を管理しています。今年は南半球でインフルエンザの流行が見られており、日本国内でもコロナとインフルエンザの同時流行が予想されているため、例年よりも増産して製造するように国の基本計画が定められました。10月か11月中のできるだけ早い時期に、一人でも多くの人が接種を完了することが望まれます。

コロナ+インフル混合ワクチンの可能性は?

インフルエンザウイルスは2009年に新型がパンデミックを起こし、その後毎年その時の新型ウイルスが流行を繰り返しています。コロナウイルスも2019年に発生した新型のものが今後も残り、おそらく毎年流行を繰り返すことが予想されています。そう考えるとこの2つの感染症の予防はしばらくは毎年必要となりますので、当然混合ワクチンの開発は進むと考えられます。ただコロナワクチンの先々の事はまだ不明確なことが多く分かりません。検査キットでは、すでにインフルエンザウイルスとコロナウイルスの両方を同時に検査できるものが次々と開発されてすでに実用化されています。

コロナみたいな後遺症が起こる可能性は?あるならどんな症状?

コロナウイルスの後遺症については、その原因はわかっていないものが多いのですが、自律神経や精神神経的な関連が示唆されています。インフルエンザでは激しい急性期の症状がありますが、肺炎や脳症等の合併症を起こさない限りは、一般的には後遺症は残らないとされています。ワクチンによる後遺症は報告がほとんどありません。

インフルエンザ肺炎とインフルエンザ脳症とは?

インフルエンザで死亡する原因のほとんどは肺炎です。ただ特徴的なのは、インフルエンザウイルスそのものが肺炎を起こす事は多くなく、インフルエンザで体が弱ったり気管支が傷ついたりしているところに別の細菌が感染を起こし激しい細菌性肺炎を起こし重症になることが多いのです。
またインフルエンザ脳症という合併症が子どもに発生して毎年ニュースになりますが、これも同じようにインフルエンザのウイルスそのものが脳に入り込んで脳炎を起こすのではなく、インフルエンザウイルスに対する体の免疫反応の暴走により脳や脊髄液の中で激しい炎症を起こす特殊な病態で、稀ではありますが毎年小児で死亡例が出ています。またインフルエンザは脳症を起こさなくても、精神症状や異常行動が出やすいウイルスですが、高熱や脱水によるとされています。

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

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