コロナウイルスでも変異型ウイルスという言葉が知られるようになりましたが、実はインフルエンザウイルスの方が激しく変異を繰り返すことで有名です。インフルエンザウイルスの最大の特徴と言っても良いでしょう。そのためインフルエンザウイルスは何十種類もの変異型が存在し、毎年のようにウイルスが微細な変化を繰り返すため、感染力が増し、ワクチンの効果も安定しないと考えられています。
インフルエンザを大別すると、遺伝子のタイプによりA型とB型に分けられます。A型とB型はウイルスの蛋白構造が大きく異なるため、ほぼ別のウイルスといっても良いくらい大きな違いがあります。毎年冬場に大きく流行しているのはA型で、突然変異が激しく感染力が強い特徴があり、私たちが持っているインフルエンザのイメージはほとんどこのA型のものです。一方でB型は遺伝子的に安定しており、変異も少ないためあまり大きな流行は起こしません。冬場以外の季節はずれに発生したり、消化器症状が出たり少し変わった臨床経過となることがあります。
さらにA型のインフルエンザウイルスは、突然変異が激しく種類が多く存在するため、HA・NAといった分類方法で表します。インフルエンザウイルスは事実コロナウィルスと構造がよく似ており、RNAウイルスという遺伝子のタイプも同じです。見た目もよく似ており、コロナウイルスで言うところのS抗原 (スパイク蛋白) のようなトゲトゲの構造がインフルエンザウイルスの表面にもあり、これをHA(ヘマグルチニン)・NA(ノイラミニダーゼ)と呼んでいます。インフルエンザウイルスの正面のトゲトゲの形の違いにより、現在HAが16種類、NAが9種類に分類され、このHAとNAの組み合わせでA型のインフルエンザウイルスの種類が決まります。例えば、流行するインフルエンザウイルスの株が、H1N1、H3N2などと表現されています。
インフルエンザウイルスは毎年のように変異ウイルスが出現していますが、中でも大変異と呼ばれる大きな突然変異を起こしたものは新型インフルエンザウイルスと呼ばれます。ちょうど新型コロナウイルスと同じようなパンデミック(世界的大流行)が、過去を遡るとおおよそ20年に1回ほど発生しています。最近ですと、2009年に豚インフルエンザ由来とされる大変異により新型インフルエンザウイルスが発生しパンデミックとなりましたが、これはH1N1というタイプのA型インフルエンザウイルスでした。また歴史上最悪の大流行といわれるスペイン風邪は1918年の第一次世界大戦中に発生し、人類の約2人に1人が感染、1億人以上の死者を出したと記録がありますが、これもH1N1の亜型だったと言われています。現在は、2009年に大流行した新型インフルエンザウイルス(H1N1 pdm09)が12年経った今も毎年流行を繰り返しています。
鳥インフルエンザという言葉のニュースをしばしば耳にすると思いますが、鳥の間で流行しているインフルエンザウイルスが人間に感染を起こすようになったことがあり、その際に感染力と死亡率の高さは他に類を見ないほどで、感染した人の2人に1人は死亡しています。このような理由から、鳥インフルエンザが確認されると突然変異による人への感染を起こさせないように、家禽の一斉処分といった方法がとられています。
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職