2021年初頭に日本でコロナワクチンの接種が開始されて早1年が経過しました。日本では2022年4月末の時点でコロナワクチン2回目接種者は全人口の80%を超え、3回目接種者も全人口の50%を超える接種率を達成しています。これは先進国の中でも接種率としてはトップクラスの水準に位置しています(アメリカやヨーロッパの国々では2回目接種が70%前後、3回目接種も進まず40%前後で頭打ちとなっています)。日本人は副反応に対する抵抗が強く国民全体での接種率が進まないのではないかという予測に反し、逆に日本人の感染症予防の意識の高さと、周囲に感染さないためにワクチンを打つという献身的な姿勢が高い接種率の数値で現れたように感じます。
1,2回目から3回目接種に至るまで、日本ではファイザー社製とモデルナ社製の2種類のみで接種を行っていますが、2022年4月末に第4のワクチンであるノババックス社製ワクチン(米国)の薬事承認が通り、約1億5000万回分の契約が成立したと報道がありました。
ノババックス社製ワクチンはどのような特徴があるの?
大きな枠組みとしては、ファイザーやモデルナのmRNA型ワクチンともアストラゼネカのベクター型ワクチンとも異なりノババックス社製は「組み換え蛋白ワクチン」というタイプに分類されます。組み換えタンパクワクチンとは、コロナウイルスの外側のトゲトゲの部分(スパイクSタンパク)を、遺伝子組み換え技術により人工的に大量に複製して、これをワクチンとして人の体内に投与するというものです。製造工程でコロナウイルスそのものを増殖させる必要がなく、タンパク質の生合成により安全に生成されるワクチンです。この製造手法はB型肝炎ワクチンなどに昔から用いられているもので、使用実績が多いという点でも安心感があると言えるでしょう。またデルタ株の流行前までのデータにはなりますが、有効性は発症予防効果が90%前後と非常に高く、一方でmRNA型ワクチンで問題となっているような副反応が起きにくく、接種部位の痛みや腫れ、全身倦怠感や発熱などは軽度であると報告されています。1回目や2回目接種時に強い副反応がありその後のワクチン接種を断念したような人には、このノババックス社製ワクチンによる追加接種の選択肢が今後一助となるかもしれません。
使用条件は?
基本的な使用条件としては、18歳以上が対象で、3週間あけて2回の接種が必要です。1、2回目にファイザーやモデルナを使用して、3回目以降をノババックス社製ワクチンで追加接種する、いわゆる交互接種が可能とされています。用法としては、上腕の三角筋に筋肉注射を行うということで、これまでの他のコロナワクチンとほぼ同様です。薬剤の保管方法は冷蔵で長期保存ができますので超低温の特殊な冷凍庫が必要なく、また安定した薬剤ですので運搬による振動や光などの刺激で不活化されることもほとんどなく、全般的に扱いやすいということも医療機関側の大きな利点だと思われます。
具体的な使用ケースとしては、日本でも議論され始めている4回目接種(高齢者や基礎疾患のある人のみに接種を想定)や、来年以降の抗体価増強(ブースター接種)としての役割が期待されています。
以下に、これまで日本で承認されている4種類のワクチンのタイプ、接種回数、特徴を表にまとめておきますのでご参照下さい。
ファイザー(米国) | モデルナ(米国) | アストラゼネカ(英国) | ノババックス(米国) | |
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タイプ | mRNA型ワクチン | mRNA型ワクチン | ウイルスベクター型ワクチン | 組み換えたんぱく型ワクチン |
接種回数 | 3週間あけて2回 | 4週間あけて2回 | 4週間あけて2回 | 3週間あけて2回 |
特徴 | 発症予防の有効率が高い 抗体持続が短い |
発症予防の有効性が高い 抗体持続が短い 副反応が比較的強い |
冷蔵で長期保管が可能 | 実績のある製造手法 冷蔵で長期保管が可能 副反応が軽いとされる |
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職