インフルエンザの治療薬は大きく2つに分類されます。
1つは抗ウイルス薬と呼ばれるもので、インフルエンザウイルスの増殖を抑えたり、人の細胞への出入りを止めたりする機序を持つ、ウイルスそのものに作用する薬剤群です。
もう1つは熱や倦怠感、寒気などの激しい急性症状を和らげる薬で、対症療法薬とも呼ばれる薬剤群です。
インフルエンザの抗ウイルス薬
抗ウイルス薬の分類については、それぞれ長所と短所があります。
服用方法等を簡単にまとめた表がこちらです。
薬剤名 | タミフル | ゾフルーザ | リレンザ | イナビル | ラピアクタ | アビガン |
投与方法 | 内服薬 | 内服薬 | 吸入薬 | 吸入薬 | 静脈注射薬 | 内服薬 |
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期間・回数 | 1日2回、5日間 | 1回で完了 | 1日2回、5日間 | 1回で完了 | 1日1回、連日投与 | 1日1回、5日間 |
メリット | 使用実績が多い、安価 | 治療が1回で完結、即効性 | 副作用や耐性が少ない | 副作用や耐性が少ない 治療が1回で完結 |
重症な入院患者などに使用 | 一般臨床で使用なし (緊急時使用に備蓄) |
デメリット | 5日間で飲み忘れ | 耐性菌の可能性 | 5日間で自己中断、操作が煩雑 | 服薬指導が必須 | 自宅で自己投与できない | 妊婦や小児に使用できず |
予防投与 | 1日1回、7-10日間 | 1回 | 1日1回、7-10日間 | 1日1本、2日間 | – | – |
タミフルとは
タミフルは、内服薬で1日2回の5日間服用が必要です。
このタイプの抗ウイルス薬の中では最も使用実績があり、小児使用への知見も多く、困ったときには一番頼られる薬です。
5日間服用が必要と飲み忘れに注意が必要です。
以前異常行動が話題になったことがありましたが、その後薬との直接的な関連性はないことが明らかとなりました。インフルエンザに掛ること自体が高熱や脱水の影響で精神症状が出やすいことが分かっています(熱せん妄と呼ばれます)。ただそれでも本人が心配な場合には、10代の人にはタミフル処方を避けることも少なくありません。
ゾフルーザとは
ゾフルーザは、内服薬で1回の服用で治療が完了します。
この中では一番新しい内服薬で即効性があるとされています。
耐性菌が20%ほど確認されたシーズンがあり、今後の使用が推奨されるかどうかは不透明な状況です。
リレンザとは
リレンザは、吸入薬で1日2回の5日間服用が必要です。
インフルエンザウイルスの主な感染部位である気道に集中的に薬を投与するため、全身性の副作用などが出にくく、またウイルス耐性が起こりにくいと想定されています。
タミフルと同じく5日間の服用が必要で飲み忘れに注意が必要であり、また、操作が煩雑なため自己判断で服用中断して効き目が薄くなることが多くあります。
イナビルが出てからはこのお薬を処方するケースはほとんどなくなりました。
イナビルとは
イナビルは、吸入薬で1回の服用で治療が完了します。
リレンザと同じく主な感染部位である気道に集中的に薬を投与するため、全身性の副作用などが出にくく、またウイルス耐性が起こりにくいと想定されています。
しかし、服薬方法が難しく服薬指導が必要なため自分で服薬できない小さな子には処方しにくいというデメリットがあります。
ラピアクタとは
ラピアクタは、静脈注射薬で1日1回、連日投与されます。
主に重症な入院患者などに使用にされるため普段皆さんが投与することはほとんどありません。
注射薬という特性上自宅で自己投与を行うことができません。
アビガンとは
アビガンは、内服薬で1日1回の5日間服用が必要です。
胎児奇形があり小児使用のデータがまだないため実臨床では使用されていません。
まだ研究段階で緊急時使用のために備蓄されています。新型コロナウイルスにも効くと一時期話題になりましたが治験の結果「統計的な有意性を確認できなかった」と公表されています。
インフルエンザ感染時の解熱鎮痛薬には注意
解熱鎮痛薬は幅広く使用されていますが、インフルエンザにかかった場合には使用できる薬剤が限られています。ロキソニンやボルタレン、イブプロフェンといった代表的なNSAIDsと言われる解熱鎮痛薬の使用は、副反応のリスクが高く慎重に判断しなければいけません。特に小児では、重症な肝障害やライ症候群という病気を引き起こすことがあり禁忌です。インフルエンザに安全な薬剤としては、アセトアミノフェン(カロナールなど)、また発汗作用などを有するエフェドリンが含まれた漢方薬(麻黄湯など)が使用されることもあります。
抗ウイルス薬の予防投与とは
予防投与とは、まだインフルエンザを発症していない人で、家族の感染など濃厚接触があった場合に、発症前に事前に薬を投与することで発症や重症化を防ぐ予防方法です。表に示すように、それぞれの治療薬を用量や期間を変えて投与することで、インフルエンザ暴露後の発症予防効果が実証されています。一方で、予防投与により入院率低下や合併症予防など重症化を防ぐ効果まであるかどうかについては、まだはっきりとした結論が出ていません。慢性疾患を持っている人、入院中の人や施設入居者、高齢者など、インフルエンザ感染におけるリスクの高い人には推奨されており、それ以外の一般人には任意で使用するとなっています。
当院ではインフルエンザの検査は発熱外来で実施しております。
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職