花粉症
春はスギやヒノキによる、花粉症の季節でもあります。花粉が鼻や目から入ってきて、体内の免疫システムによって「異物=敵」とみなされると、敵に対抗するための抗体(IgE抗体)がつくられます。このIgE抗体は、花粉に接触するたびにつくられ、少しずつ体内に蓄積されていきます。蓄積量があるレベルに達すると、次に花粉が入ってきたときに、アレルギー反応を起こすヒスタミンなどの化学物質が分泌され、鼻水やくしゃみ、鼻づまり、目のかゆみといった症状を引き起こします。花粉が飛んでいる時期と典型的な鼻や目の症状があれば、臨床的に診断しているのが実際です。
特異的IgE抗体検査とは?
花粉症のアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を血液検査で調べる方法に、特異的IgE抗体検査があります。特異的IgE抗体検査は名前の通り、アレルゲンに特異的なIgE抗体を測定します。測定値は、クラスという段階的に量を示す方法でクラス0~6までの7段階で表されます。値が高い方がその特異的IgE抗体の量が多いことを示しています。特異的IgE抗体検査として、血液検査で特定のアレルゲンをセットで39項目調べられる「Viewアレルギー39」という検査法を当院では採用しています。他に、指先から少量の血液を取って簡易的に調べられる「イムノキャップラピッド」という検査もあり、腕からの採血が難しい小児などで行うことがあります。アレルゲン8項目(スギ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、ヤケヒョウヒダニ、イヌ皮屑、ネコ皮屑、ゴキブリ)が20分で調べられます。いずれの検査も結果の解釈には注意が必要です。これらで数値が高いからと言って、必ずしも症状とは一致しないのです。検査陽性であっても、そのアレルゲンに感作されている(体が反応している)だけで症状のない場合もあり、あくまで診断の参考という位置付けで、大切なのは時期と症状の組み合わせです。アレルゲン免疫療法を除けば、原因アレルゲンが何であれ治療方針は大きく変わらず、また花粉症の場合は症状の時期で、ある程度原因となる花粉が推定できることもあり、検査するかどうかは患者さんと相談して決めています。
食物アレルギー
食物アレルギーを疑うときにも、この特異的IgE抗体検査を実施することがあります。同様にこの検査が陽性であることは、食物アレルギーの診断の根拠とはならないことに注意が必要です。この検査は食物アレルギーではない患者であっても検査が “陽性”になることがあり、また逆に食物アレルギーであるのに検査が“陰性”になることすらあります。このため検査結果のみに基づく診断では、過剰診断や食事制限のために患者さんの不利益につながってしまいます。特異的IgE抗体の存在は、あくまでその食物アレルゲンに感作されているだけで、必ずしも症状に関わる真のアレルゲンであるとは限らないのです。採血結果はあくまで診断の参考であり、食物摂取と症状出現の関連などを詳しく聞いて、疑わしければアレルギーの専門科へ紹介し、食物経口負荷試験などを行って正しく診断を確定していくことが大切になります。
最後に
他、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、じんま疹などでも特異的IgE抗体検査を実施することがありますが、結果の解釈にはいずれも注意が必要で、陽性だからといって必ずしも症状の原因とは限らないことも多いです。検査の限界を知り、結果を上手に利用する必要があります。まずはクリニックでご相談ください。
参考文献
・鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会・食物アレルギー診療ガイドライン 2016. 日本小児アレルギー学会・蕁麻疹診療ガイドライン2018年版. 日本皮膚科学会・症例を通して学ぶ年代別食物アレルギーのすべて第2版. 海老澤元宏 (編). 南山堂. 2018
当院でもアレルギー検査を実施しております
東京ビジネスクリニック 常勤医師
自治医科大学医学部卒。千葉県内の地域医療に従事し、東京ビジネスクリニックの常勤医となる。
日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医・指導医、日本在宅医療連合学会認定 専門医