喫煙は、がん·動脈硬化性疾患·肺気腫などと大きな関係があるとされています。また、喫煙はあなたの健康を損なうばかりでなく、周りの人にも健康被害を与える可能性があります。タバコを止めると以下のように健康、社会、経済面で大きなメリットが得られます。
タバコが健康に与えるインパクト
タバコの煙の中には、約7000種類の化学物資が含まれており、この中で少なくとも69種類が発がん性物質です。 喫煙している本人がなりやすいがんとして、口腔·咽頭がん、鼻腔·副鼻腔がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、急性骨髄性白血病、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、大腸がん、子宮頸がん、膀胱がんが挙げられます。
これらのがん以外にも狭心症、心筋梗塞、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、骨粗鬆症、不妊、性的不全など、さまざまな病気の原因にもなります。
また、喫煙している本人だけでなく、たばこは周りの人にも肺がん、および低出生体重、乳幼児突然死症候群、呼吸器疾患、中耳炎など様々な健康被害を引き起こします(文献1)。
タバコは新型コロナウイルス感染症の重症化要因
喫煙すると肺が壊れたり、免疫力が低下したりして呼吸器感染症の重症化要因となります。新型コロナウイルス肺炎では重症化の最大のリスクと考えられており、喫煙者は人工呼吸器が装着される、あるいは死亡する危険性が非喫煙者の3倍以上になることが明らかになりました(文献2)。世界保健機関(WHO)もCOVID-19対策として「禁煙すること」を強く推奨する声明を出しています(文献3)
禁煙することで得られる効果
WHOは禁煙のメリットを以下の様に紹介しています。
A.すべての喫煙者にもたらされる禁煙の効果
禁煙してからの |
健康上の好ましい変化 |
20分以内 |
心拍数と血圧が低下する |
12時間 |
血中一酸化炭素値が低下し正常値になる |
2-12週間 |
血液循環が改善し肺機能が高まる |
1-9カ月 |
咳や息切れが減る |
1年 |
冠動脈性心疾患のリスクが喫煙者の約半分に低下する |
5年 |
禁煙後5~15年で脳卒中のリスクが非喫煙者と同じになる |
10年 |
肺がんのリスクが喫煙者に比べて約半分に低下し、口腔、咽喉頭、食道、膀胱、子宮頸部、膵臓がんのリスクも低下する |
15年 |
冠動脈性心疾患のリスクが非喫煙者と同じになる |
B. 全年齢層ですでに喫煙関連の健康問題が生じている人にもたらされるメリット
禁煙の時期 |
喫煙を続けている人と比較したメリット |
30歳頃 |
寿命が約10年長くなる |
40歳頃 |
寿命が9年長くなる |
50歳頃 |
寿命が6年長くなる |
60歳頃 |
寿命が3年長くなる |
生命に関わる疾患の発症後 |
心臓発作の発症後に禁煙すれば、次の心臓発作が起きる可能性を50%低下させる |
C. 禁煙によって、呼吸器疾患(喘息など)や中耳炎など、子どもの受動喫煙に関連する多くの病気の過度のリスクを減らすことができる
D. 禁煙によって、性的不全、不妊、早産、低出生体重児、流産の可能性が低下する
WHO. A guide for tobacco users to quit(2014年5月23日)より改変
禁煙は何歳から始めてもメリットがあります。禁煙しようかなと思われている方、今がチャンスです。
加熱式たばこについて
最近加熱式たばこを選ばれる方が増えてきました。加熱式たばこでは紙巻きたばこに比べてニコチン以外の有害物質の体への取り込みは減少します。ですが有害物質が減っても、それに見合うだけ病気のリスクが減るかどうかはわかっていません(文献4)。また今後もニコチンにしばられた生活が続くことになります。
加熱式たばこに変えたことをゴールとするのではなく、最終的にはその使用も中止することを考え、あと一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
禁煙外来は条件を満たせば健康保険で治療できます。また禁煙補助薬として、貼り薬(ニコチンパッチ)と飲み薬(チャンピックス)の2種類がありますが、後者は出荷停止が続いているため、当院では前者による治療を提供しています。詳細については下記のサイトをご参照ください。
https://www.businessclinic.tokyo/recommend/stopsmoking
参考文献
(1) WHO. A guide for tobacco users to quit(2014年5月23日)https://www.who.int/publications/i/item/9241506939
(2) Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, Liang WH, Ou CQ, He JX, et al. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020;382(18):1708-20.
(3) WHO. WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 (2020年3月20日)https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19—20-march-2020
(4) 中村正和、他:加熱式たばこ製品の使用実態、健康影響、たばこ規制への影響とそれを踏まえた政策提言。日本雑誌公衆衛生雑誌67(1):3-14,2020
医師 二見 宗孔 (Futami Muneyoshi)