小児の急性肝炎、その正体とは?

原因不明の子供の急性肝炎の報告が相次いでいます。昨年より欧米を中心に1000人以上の発症が報告されています(欧州疾病予防管理センターECDC、米国疾病予防センターCDCによる)が、日本でも2023年2月16日時点で162人がこの原因不明の急性肝炎と診断され、そのうち1人が死亡、3人が肝移植をしています(厚生労働省の発表による)。

通常、肝炎という病気は大人で生じることがほとんどでしたが、この原因不明の急性肝炎はむしろ子供にしか発症せず、3-5歳前後が最多で、患者のほとんどが10歳以下の小さな子供であるという特徴があります。

急性肝炎とは?

急性肝炎とは、その名の通り肝臓に炎症が起こることを指し、症状としては体のだるさ、発熱、吐き気や下痢などの消化器症状が起こることが一般的ですが、微熱が出るだけで無症状であることも少なくありません。重症化すると、皮膚が黄色っぽくなる黄疸や、皮膚にアザができやすくなったり、全身の代謝に異常をきたしたりする場合もあります。

今話題になっている原因不明の急性肝炎はこの重症化率が高く、入院や最終的に肝不全(肝臓が全く機能しなくなる状態)となって肝臓移植に至るケースがあるとされていますが、日本ではまだ肝移植や死亡に至るケースは多くありません。

急性肝炎の原因の多くはウイルスの感染症によるものです(それ以外にはお酒、薬物や化学物質、アレルギー反応によるものがあります)。A型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスなどが重症化しやすいことで知られ、予防法としてのワクチンも広く普及しています。ただ頻度で言えば、一般的な風邪の原因となる弱いウイルスでも肝炎を起こすものが沢山あり、症状がかるいため肝臓検査や入院などには至らずに自然に治癒しているものも多いとされています。
そのため軽い肝炎であれば疑って検査をすることもなく軽症のまま見逃されて自然治癒しているケースも相当数あると思われ、実際の発生数は正確に推定できていないのが実情です。つまり、軽症の肝炎の子供は実はもっと沢山いて、重症な肝炎の子供のみが検査をして報告に挙がっている可能性があります。

今回の原因不明の急性肝炎も、まだ確定的ではありませんが、一般的な風邪の原因ウイルスの一つであるアデノウイルスとの関連が疑われています。重症化して入院し検査をした患児の少なくとも半数以上でアデノウイルスが検出されています(また急性肝炎で入院した患児の1-2割に新型コロナウイルスも検出されています)。

アデノウイルスとは?

アデノウイルスは一般的な風邪のウイルスですが、強い炎症反応を起こすことがあり、高熱や喉のリンパ節の腫れ、目が真っ赤に腫れる結膜炎、嘔吐・下痢などの消化器症状を起こす胃腸炎など、多彩な全身症状を起こすことで知られています。

まだ仮設の段階ですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止の予防策により例年のアデノウイルスの大きな流行がなく、子供たちのアデノウイルスに対する免疫が下がってしまったことが急性肝炎に何かしらの関連があると推測されています。免疫のない状態で久しぶりにアデノウイルスに感染したことで急性肝炎を含む強い全身反応を起こしたのではないか、もしくは新型コロナウイルスとアデノウイルスの混合感染により強い免疫反応を起こした可能性もある、という理由が有力視されています。

いずれにしても、原因不明の急性肝炎と言っても検査や治療は想定の範囲内で対応できるものであり、謎の奇病が蔓延しているというような状況ではありません。厚生労働省からも「明らかな増加傾向にはない」とされ、現状の感染対策や感染予防策を継続することが大事だと通知が出ています。

2022.05.31作成

内藤 祥
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職

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