妊娠している場合に、インフルエンザワクチンを接種しても問題ないのかという質問もよく受けます。結論としては問題ありません。妊娠中は免疫力が低下してインフルエンザに罹りやすくなることと、仮に罹ってしまった場合に切迫早産などのリスクが上がるため、妊婦さんへのインフルエンザワクチン接種が推奨されています。
インフルエンザワクチンに限らず、多くのワクチンには防腐剤としてエチル水銀という成分が含まれています。水銀は体内に蓄積すると神経毒となり、特に妊娠中の妊婦が水銀を多量に摂取すると胎盤を通して胎児の発育に影響与えるとされています。
重要なのは含まれる水銀の量です。インフルエンザワクチンで言えば、ワクチン1本あたりに約25μgのエチル水銀が含まれますが、この25μgとは人体に影響しえない極めて少ない量です。私たちが一般によく食べる魚などの食品にも含まれているものと同程度とされており、例えば寿司ネタのマグロ4巻 (60g) に含まれる水銀の量と同じです。またこのエチル水銀という物質は体内に入るとあっという間に分解され数時間で尿や便から体外に排出されるため、魚などの食品に含まれるメチル水銀のように何ヶ月も体内に蓄積するという事はありません。
海外でも妊娠中にワクチンを接種した場合の安全性について、接種をした場合としない場合で、流産や奇形児の発生率に差がないという研究データがほとんどです。
ただ妊娠は医学的には何もしなくても一定の確率で流産や奇形などが発生するものですので、万が一そうした事態になってしまった場合に、心理的にワクチン接種と関連付けて後悔することがないよう、本人がきちんと納得して判断した上での接種が望ましいと思われます。
医療法人社団クリノヴェイション 理事長
専門は総合診療
離島で唯一の医師として働いた経験を元に2016年に東京ビジネスクリニックを開院。
日本渡航医学会 専門医療職