今世界は新型コロナウイルス感染症(以下COVID19)による未曾有の事態に陥っています。
中国の武漢で2019年12月に始まり、全世界で感染者数1億7300万人、死者372万人、日本でも2020年1月16日に国内初の感染者が確認されてから、感染者数は73万9000人、死者も13000人を超えています。(2021年5月29日現在)
各国でロックダウンが相次ぎ、日本でも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出され、オリンピック・パラリンピックは史上初めて延期となりました。
2021年12月8日、イギリスを皮切りに新型コロナウイルスワクチンの接種が各国で本格化され、6月2日現在、世界全体の累計接種回数は19億7672万回を超え、国・地域別では米国と中国が突出し、2カ国で全体の49.5%を占めています。
日本の累計接種回数は1477万5865回になっていますが、接種率は欧米諸国と比較し、以前低い状態にあり、ワクチン接種が比較的進んでいる国々では感染者数が明らかに減少に転じています。
このような状況下ではありますが、「東京2020」が開催することが決定され、ついに7月23日に開会式が執り行われます。しかし、残念ながら今大会は海外からの観客は入国させないことも決まっています。
今まではオリンピック・パラリピックと感染症は接点がないイメージだったかもしれませんが、今回のCOVID19流行によって、開催国にとっては思いもよらぬ感染症の拡大の可能性が大きいことを身を持って感じた方も多いのではないでしょうか?
開催が感染拡大につながる理由や警戒されている細菌・ウイルス、予防策をここに記したいと思います。
なぜオリンピック・パラリンピック開催が感染拡大の要因になるの?
オリンピックが開催されると開催地域に多くの人が集まります。日本人だけでなく、海外の方も多く来日するため、海外で流行している細菌・ウイルスが日本に持ち込まれる機会が多くなります。
このような状況を「mass gathering(マスギャザリング)」といいます。これは「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と日本集団災害医学会により定義されています。人が多く集まるほど、何らかの感染症に感染している人が存在する可能性があり、人から人へ感染拡大しやすい状況になります。そのためマスギャザリングでは細菌・ウイルスが持ち込まれ、そのまま感染拡大するリスクが高まります。
過去のオリンピックでは、2018 年に開催された平昌冬季五輪でノロウイルス感染が拡大 し、選手に感染しました。
2016 年に開催されたリオ夏季五輪では、ブラジル国内でジカ熱が流行して参加を辞退する 選手が続出するほど問題となりました。
実際はどんな細菌やウイルスが警戒されているんだろう?
(今大会は海外からの観客の入国は禁止になったため、詳細は割愛します。)
輸入例が増加 |
大規模事例の危険 |
感染経路 |
||
ワクチンで予防可能な感染症 |
麻しん(はしか) |
◯ ◯ |
◯ ◯ |
空気 |
昆虫・動物による感染症 |
中東呼吸器感染症(MERS) |
◯ |
◯ |
ラクダが感染源の1つとして推定 蚊 |
食品による感染症 |
腸管出血性大腸菌感染症 |
◯ |
◯ |
経口
経口 |
その他 |
結核 |
◯ |
空気 接触 |
予防するにはどうしたらいいの?
免疫をつけて予防できるものは、ワクチン接種や体力をつけるなどで備えましょう。今までマスギャザリングで警戒されていた飛沫感染する病原体はインフルエンザ・風疹・百日咳です。
この度のCOVID19の感染対策でも、標準的な感染対策(手洗い、マスク着用)が、最も簡潔かつ有効であることを皆さんも体感されたことでしょう。
実際に新型コロナウイルス感染症の陽性者の85%は、マスクなしでの食事や会話があったというデータも出ています。
飛沫感染を防ぐには、鼻を出さずにマスクをつけるのが有効です。とにかく手洗いをしっかり行い、 眼・鼻・口に入らなければ空気感染以外の感染症は防ぐことが出来ます。
また日本でもCOVID19のワクチンが各地で開始され始めたこと、また国の特別対策を踏まえて都と国が締結し、大会ボランティアの方々には大会時の感染予防と観客・関係者などへの感染拡大予防を目的として、MRワクチン(麻疹・風しん混合ワクチン)を無料で接種しています。
このように「ワクチンで感染症を予防する」ことの大切さが浸透されてきたことをきっかけに、母子手帳を確認して自分の接種歴を確認したり、接種していないワクチンに関しては、この機会に接種することをおすすめします。
最後に
現在、開催都市である東京都も、都民等への普及啓発や医療機関における対応強化、情報発信の多言語化、競技大会に向けた感染症対策などを掲げ、準備を進めています。
今回のオリンピック・パラリンピックは歴史的に類をみない大会になりますが、まずは皆さんがこのウイルスに対する正確な知識を持ち、全選手への応援の気持ちと、運営に尽力する方々への感謝を忘れず、この大会が選手にも応援する私たちにとっても、「開催してよかった」と心に刻まれる大会になりますように。
ペリエ千葉エキナカ院長
東京医科大学医学部卒業
医師が少ない病院の勤務が多く、科の垣根を隔てて、他の科の患者さんの診察や検査など、都心の中の僻地医療を実施